このお話し会でキリムの奥深さを知り、
より想像力をもって眺めるようになりました。
東京世田谷にある「針仕事の専門店 WASABI-Elişi(ワサビ・エリシ)」で
開催されたお話し会「織り手が見るキリムの魅力」のレポートです。
Kilim(キリム)は、現在のトルコ、アナトリアを中心に、東欧から中東にかけて、遊牧民たちが織る平織の敷物。WASABI-Elişiの店内には、常時、さまざまなキリムが飾られていて、足を運ぶ度に目にしていたのですが、このお話し会でキリムの奥深さを知り、より想像力をもって眺めるようになりました。
語り手は、「キリム手織工房 koyun」教室主宰の佃 由紀子( Koyun由紀子)さん。床に何枚ものキリムを広げながら(しかも、ほとんどが希少なオールドキリム!!)、一枚一枚ていねいに解説していただきました。その話がおもしろい!
「キリムを織るには、まずヒツジを育てることからはじまるの。育てたヒツジを川で洗って、毛刈りして、糸をつむいで、そして染める。ヒツジの育て方で糸の質も変わるのよ。キリムはこの糸がとても大切」
キリムの主流はヒツジの毛だそうですが、アナトリアではヤギの毛を使うことも。タテ糸はヒツジ、ヨコ糸はヤギ。そうしてできたキリムは、昔からたいへん貴重なものとされています。
Koyunさんが織物で惹かれるところは「技法」。それは、国や部族によって違い、これはどこの織り方なのかと探求しても、確かなルーツがわからない。それが興味がつきない理由のひとつだといいます。
キリムは、昔から母から娘へと伝承されてきました。独特の模様にマニュアルはなく、祖母や母親がつくったキリムをお手本にしながら織っていくそう。そこには、さまざまな想いや祈り、メッセージが込められています。
「これは嫁入り道具として織ったものだと思う。だって、色がカラフルだし、あちこちに幸せを感じる。将来のだんな様をイメージしながらルンルンで織ったと思うわ」
「キリムは二人で並んで織ることもあるのだけど、これはきっと親子で織ったのね。右と左で微妙に柄が違うのがわかりますか。右の方が上手だからきっとお母さん、左が娘さんだと思う」
そんな隠れた物語を想像しながらキリムを見ると、一枚の絨毯からいくつものドラマが生まれてきます。
そして、最後に聞いた話は、いつまでも心に残って、ますますキリムの魅力にはまっていくのです。
「同じようなモチーフが並んでいても、どこか一つ色が違ったり、形が違ったりするでしょ。キリムはいい意味で適当なんです(笑)。この不完全さがいい。不完全な部分があるから、想像力がかきたてられるんですよ。完璧な織物はおもしろくないです。人間と一緒ですね。カンペキな人はいない。キリムを見ていると、あわてんぼな私でもこれでいいんだって思えてくる(笑)」
キリムの織り手は、「完全なのは神様だけ」という考えのもと、あえて途中で色や模様を変えたりします。人間がつくったものは不完全、それでいて美しい。とても深い話が聞けて、心が豊かになったひとときでした。
Kilim Koyun オンラインショップ
https://kilimkoyun.thebase.in/
ひとくちにキリムといっても、その種類やグレードはさまざま。
WASABI-Elişiが展示販売するキリムは、Koyunさんが太鼓判を押していました。
WASABI-Elişiでは、Koyunさんのキリム教室も開催されています。
毎月 第四日曜日(原則)13:00-15:00
針仕事の専門店 WASABI-Elişi
http://wasabielisi.com/