飯能が誇る「西川材」とのコラボレーションが実現
埼玉県飯能市(はんのうし)。西武池袋駅から特急電車で約40分。
西川材とは、埼玉県の南西部を流れる高麗川(こまがわ)、名栗川(なぐりがわ)、越辺川(おっぺがわ)流域で育てられたスギ、ヒノキを中心とした木材のこと。
かつては、筏(イカダ)を組んで江戸へ木材を流送していました。「西の川からやってくる木材」が「西川材」と呼ばれる所以です。気象条件や土壌がスギやヒノキの生育に適していて、色やツヤ、香りがよく、年輪が緻密で節が少ないのが特色です。
土地の特産品をつかってバッグをつくるのは、kibi-ru ACTIONのスタイルの一つ。
これまでも所沢人形の織物や武州正藍染(埼玉県北部)、秩父銘仙など、埼玉が生んだ伝統的手工芸品を取り入れてきました。
世界各地の少数民族の古布を愛おしく思う私たちは、地元の伝統や文化にも同じように愛情がわきます。
かねてより夢見ていた西川材とのコラボレーション。ついに実現しました!
西川材に触れて木の魅力を伝える「木楽里」
製作してくださったのは「きまま工房・木楽里(きらり)」。
http://www.k-kirari.co.jp/
代表の井上淳治さんには、足を向けて寝られません。工房へおじゃまするたびに、いつもむずかしそうな顔の井上さんがいらっしゃって、「こういうのできますか?」という呑気な私のリクエストに、うーーーん、んーーーむと苦笑い。後日、別の職人さんに「木で曲線をつくるって一番たいへんなんです」とこっそり聞かされたときは、全身が汗ばみました。
先祖代々林業を営む井上さんは、約22年前、西川材のよさを多くの人に伝えるため「きまま工房・木楽里」をオープン。工房では、必要な工具をすべて貸し出し、初心者でもできる木工品づくりをサポートしています。また、森林見学や林業体験といった多彩なイベントを開催し、木の魅力を伝えています。
「ここ10年くらいは、保育園や幼稚園の付き合いが増えてきましたね。子どもたちを山で遊ばせたい、親子で山に入ってみたい、木とふれあいたいと。県外のお客様が多いんですが、なかには泊まりがけで木工品をつくりに来る方もいますよ」
にぎったときにあたたかい。吸いつくような肌ざわり
今回のウッドリングは、軽くて、色が濃いものをオーダーしました。使用したのはスギ。スギの芯の赤い部分だけをつかっています。
「ヒノキよりもスギの方が軽いんですよ。軽いということは、それだけ空気を多く含んでいるということ。空気が多いということは、にぎったときにあたたかみがでるんです」。
はじめてにぎったときの感触は忘れません。市販の木製リングとは比較にならない軽さ。そして、赤ちゃんのほっぺのようなすべすべ感、手のひらに吸いつくような感覚。
スギは筋に沿って割れやすい性質のため、バッグの持ち手にするには相当の工夫が必要でした。試作づくりをはじめて3ヶ月目。「一度見てもらえますか」と連絡をもらって工房へ。「もっと簡単にできると思ったんだけど、結構たいへんで」。
いろんなやり方を参考にしながら、この形に辿り着いたといいます。井上さんにとってもはじめての製作でした。
いいものはいい。西川材には本物がある
幼いころから父親に連れられて、よく山へいったという井上さんは、こういいます。
「いい木を見ないと、それがいい木なのか悪い木なのか見分け方がわからない。たとえば、見た目が同じ野菜でも、無農薬や有機野菜は食べればその違いがわかるでしょ。では、木はどうしたらいいか。触れるしかないんですね。触れて本物を知るんです。この一帯は、先人たちの木に対する愛情が深い。私は、本物に出会う割合がほかより高いと思っています。本物のよさをぜひ見てほしい」。
西川材は、枝打ちや間伐をていねいに行い、丹精こめて木を育てることで有名です。また、森を守りながら持続可能な仕組みで木材を提供する制度「森林認証」の認証材でもあります。
今回のウッドリングが手元に届くまで、顔合わせから半年以上かかりました。きれいに梱包された段ボールからは、開けたとたんにスギの香り。井上さんのご苦労に心から感謝しながら、さぞやお疲れだろうとお礼のメッセージを送ったら、「こういうカタチができるということが分かったので、新しい商品作りを考えているところです」と、雄気堂々なお返事。さすがです。
西川材ウッドリングをつかったバッグは、kibi-ru ACTIONの特別編として、大切に販売していきたいと考えています。本物にふさわしい上質な生地を組み合わせ、唯一無二のストーリーをお届けします。
撮影=橋詰 大地
https://www.instagram.com/taichi4to/